第26章 【盗み聞き】
「珍しいな、屋敷しもべが応えないなんて」
「別に居ないならそれに越したことは無い。じゃあ朝食の用意をしよう。えっと、トーストとベーコンエッグ、それに紅茶と――」
「僕も手伝うよ」
厨房にシリウス、ハリー、クリスが並んだ。と言っても、今まで家事は全て屋敷しもべにやらせてきたクリスに出来る事なんて殆んどない。
反面、ハリーはとても手際が良かった。きっと叔母さんの家で散々やらされてきたのだろう。
意外だったのは、シリウスも料理が出来る事だった。曰く、独り暮らしをしていたら自然と身に着いたらしい。
とにかく2人の邪魔をしないよう、クリスはお皿を出したり、ナイフとフォークを並べたりしてその場を取り繕った。
こんな時、頭をよぎるのは屋敷しもべのチャンドラーの事だ。護衛付きでも良いから、なんとかしてこのクリスマス休暇中にサンクチュアリの屋敷に戻らなければ。
クリスにとっては、残されたたった1人の家族だ。それに屋敷がどうなっているのかも気になる。
ほんの1年前までは、意にそぐわない政略結婚までして屋敷を守らさせられる事に強い反発を示していたが、今は家が恋しくて仕方がない。
失わなければその大切さを実感できないなんて、あまりに皮肉な話だとクリスは人知れず自嘲した。
朝食を終えると、子供達は部屋に戻り暫しの仮眠を取った。クリスだけは寝室ではなく、厨房でうたた寝をした。その方がウィーズリーおばさんやシリウスが傍にいてくれるので、嫌な夢を見なくて済むからだ。
12時を回る少し前、再び玄関のベルが鳴って、ムーディ先生とトンクスがホグワーツからのトランクと一緒に屋敷にやって来た。
皆が部屋着から私服に着替えている最中、クリスはムーディ先生に半日で良いから実家に帰れないか相談した。
「実家、と言うとサンクチュアリの屋敷か?」
「はい。もちろん護衛付きで構いません、屋敷しもべの安否を確認したいんです」
「……考えてみよう」
それだけ言うと、ムーディ先生は切り傷だらけの顔をしかめた。それを見て、クリスは嫌な予感がしたがあえて何も言わなかった。