第25章 【夢であれば】
(……眠れない)
ベッドの中で、クリスはため息を吐いた。いつもなら本を読んで夜を明かすのだが、今日は廊下に本をぶちまけたまま談話室に戻ってきてしまったので、暇をつぶす本もない。
少し考えた末、クリスは本を回収しようと女子寮を抜け出した。クリスの天性の才能ともいえる感知能力さえあれば、そうそう見回りの先生やフィルチに見つかる事もない。
問題は既に他の人に本を回収されている事だ。貸し出しリストからクリスの名前を見つけ、本をぞんざいに扱ったと司書のピンス先生にバレたらひとたまりもない。
ランプを片手にそっと談話室を出て、廊下を歩いていると、バタバタと人の足音が聞こえてきた。
クリスは咄嗟に物陰に隠れ、様子を窺うと、なんとマクゴナガル先生がハリーとロンを連れ早足で廊下を突っ切って行くところだった。
これは何か臭うぞと思ったクリスは、その後を追った。
「マクゴナガル先生!!」
この際、本は後回しだ。怒られる時は素直に怒られよう。そう決めたクリスは、後ろから大きな声で一行を呼び止めた。
振り返ったマクゴナガル先生は一瞬反射的に何か言おうと口を開いたかと思うと、クリスの姿を確認し、ぎゅっと唇を噛みしめた。
「貴女でしたか、ミス・グレイン。丁度良いです、貴女もいらっしゃい」
「あの……何があったんですか?」
「それはこれから説明します、さあ、急いで」
訳が分からず、ハリーとロンに目くばせすると、2人はそれぞれ別の表情を浮かべた。だが不安そうな顔色は一緒である。
とにかく無駄口をたたかず黙ってマクゴナガル先生の後に着いて行くと、先生は校長室へ続くガーゴイルの像の前で足を止めた。
「チョコレート・プティング」
合言葉を言うと螺旋階段が現れ、4人は1列になって階段を昇った。そして大きくて立派な樫の扉の前に辿り着くと、マクゴナガル先生が真鍮のドア・ノッカーを3回叩いた。
すると扉がひとりでに開き、部屋の中ではダンブルドア校長先生が、机を前に沢山の書類を整理していた。
ぼんやりと光る机の上のろうそく以外明かりはなく、薄暗い部屋の中で不死鳥フォークスが美しく煌めいていた。