第23章 【帰ってきたハグリッド】
怒り心頭のハーマイオニーが、カバンをバンッと乱暴にテーブルの上におろした。続いて入って来たハリーとロンは、渋い顔で唇をぎゅっと真一文字に結んで、何かに耐えているようだった。
「どうした?2人とも」
「ついさっき、そこの廊下でマルフォイに会った」
「ああ、あの馬鹿か」
また下らない挑発でもされたんだろう。喧嘩は売っても買う度胸のないドラコの事だ、これは大した事ではないとクリスは判断した。
それよりも問題はハグリッドだ。どんな授業だったのかが聞きたい。
「授業自体は悪くなかったという事は、少なくともケガ人は出なかったんだな?」
「当たり前よ!それどころか見えなかったわ」
「どういう事だ?見えなかったって……」
「あのね、ハグリッドがセストラルっていう生き物を繁殖させたんだけど、普通の人には見えないの。その――つまり、『死』を目撃した人間にしか見えないのよ」
「……死を?」
その時、急にクリスの網膜に、真っ黒い人影がゆっくりと草の上に倒れる姿が鮮明に蘇った。
同時に体中の血液がサーっと足元まで下がり、手が小刻みに震える。
……思い出したくない、心は強く拒否をしているのに、視界はどんどん闇に包まれてゆく……
「――クリスッ、大丈夫?」
「ん?あ……ああ、大丈夫だ」
ハリーが声をかけてくれたおかげで、クリスの意識はまた談話室に戻って来た。
小さく息を吐き、ハリーの顔をチラリと見た。
「それじゃあ……ハリーには見えたのか?」
「……うん、あとネビルにもね」
「そうか……」
その言葉を最後に、重い沈黙が辺りに漂う。クリスはこれではいけないと思い、1回まぶたを閉じ、心のスイッチを切り替えると、わざと明るい声で「さあ宿題をやろうか」と言ってカバンから教科書と羊皮紙を出した。
この時のクリスは知らなかった。ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人が目くばせをし合い、あえて言葉を飲み込んでいたことを。
セストラルはホグワーツの馬車を牽く役目も担っており、始業式のあの日、ハリーには見えてクリスには見えないという矛盾が生じていた事実を――。