第22章 【パンドラの箱】
「いや、何でもない。明日は早いから、私はもう寝ようかな。お休み」
そう言って、クリスは女子寮への階段を上がっていった。
クリスの姿が見えなくなると、ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人はまるで示し合わせたようにバッと額を突き合わせて小声で話し始めた。
幸い双子のフレッドとジョージが新しい『ずる休みスナック・ボックス』を完成させ、それの宣伝で談話室はうるさいくらい騒がしく、誰も盗み聞きなんてしている者はいなかった。
「どう思う?あれ」
「ちょーっと無理しすぎかな?」
「ちょっとじゃないわよ、絶っ対に変よあれ」
伊達に5年も衣食住を共にしてきたわけじゃない、クリスの様子がおかしいのは百も承知だ。
それでも、そんなクリスに対して何もできない自分達に、3人は言葉もなく、沈黙があたりを包んだ。
……ややあって、ロンが小さな声で呟いた。
「あのさあ、こう言ったら誤解されるかもしれないけど……僕とクリスって生粋の魔法族出身だろ?だから魔法のない生活って、天地がひっくり返ったような、とにかく考えられないほどあり得ない出来事なんだ。それにクリスは苦労知らずのお嬢様育ちだろ?……ショックがデカすぎるんだと思う」
「そうね。それにあの子、夜は全く寝てないのよ。授業中、皆がいる中でしか眠れないみたいなの。たまに寝ているかなって思った時も、うなされて直ぐに起きてるみたいだし……」
ハリーは何も言えず黙っていた。ハリーだってショックが大きすぎて、未だにあの墓場での出来事を2人には語っていない。
目の前で父親が殺され、しかもあのヴォルデモートが実の父親だと知ったクリスのショックの大きさは、到底ハリーに計り知れるものではない。
「クリス……早く元気になるといいね」
「……そうね」
今はただ、クリスが元気を取り戻すのを祈ることしかできない。ハリーはうなだれ、目を閉じて己の無力さを思い知った。