第20章 【醜い手】
とにかくこれ以上この場に居たら不味いと判断し、4人はそれぞれ女子寮と男子寮の階段を駆け上った。クリスとハーマイオニーは急いで自分たちの部屋に戻ると、肩で息をしながら扉を閉めた。
「私達、見つかったと思う?」
「分からない、手だけだったからな。でも、危なかったことは確かだ」
「シリウス、大丈夫だったかしら?」
「……それも分からない。掴まっていなければいいが――」
クリスはあの暖炉に現れた醜悪な手を思い出した。確かに罰則を受けた時に、あの短くてブクブクと太った汚らしい手に触れられそうになり、拒絶した記憶がある。
クリスはうっすらと手の甲に残った、あの忌々しい傷跡を指でなぞった。
「とにかく、今日はもう寝ましょう。話しはまた明日にしましょう」
ハーマイオニーが疲れた声でそう言い、2人はお互い自分のベッドに入った。だがシリウスの事を思うと、クリスは今夜も眠れそうになかった。
ベッドの中で、シリウスの言葉を思い出す。するとクリスの心にほのかな暖かい光の様なものが湧き上がった。だからこそ余計に、シリウスの事が心配になった。
もしアンブリッジなんかに捕まったら、間違いなくシリウスはアズカバンに逆戻りだ。そしてディメンターに魂を吸い取られ――クリスは想像して胃がぎゅっと縮まる思いがした。
絶対に、そんな事があってはならない。クリスはベッドの中で目をつぶりながら、一晩中シリウスの無事を祈った。