第20章 【醜い手】
スネイプVSアンブリッジの対決はあまり面白いものではなかったが、代わりに次の授業の『占い学』ではとびきり面白いものが見れた。
「さあ!早くお座りなさい!!座ったら教科書を開いて!!さあ、さあ!!」
北塔の天辺にある『占い学』の教室に入った瞬間、まるで別人のようなトレローニー先生の罵声が飛んできた。
クリスの知る限り、いつも先生は良く言えば神秘的な、悪く言えば蚊の鳴くような細い声で語りかけてくるので、こんな風に怒鳴った姿は1度も見たことがない。
クリス達は訝しげに席に座ると、そろって顔を見合わせた。
「あれ、どうしたんだ?」
「僕の感では、きっと査察の結果を受け取ったんだともうよ」
なるほど、確かにハリーの言う通り、それなら納得がいく。試しにトレローニー先生の信者のラベンダーとパーバティの2人が、先生のご機嫌を伺うと、トレローニー先生は体をプルプル震わせ、大きなメガネの奥から一筋の涙を流した。
「別に!……別に、どうって事ありませんわ!ただ……ただ、謂われなき中傷を……ええ、仕方のないことですの!わたくし達の様な『予見者』は、いつだって穢れた俗世の人間達から理解されてきませんでしたから。ですから……ですから、わたくしの16年の献身が実を結ばなくとも、それは誰も責める事は出来ませんわ!」
最後の言葉を言い切ると、先生はブゥーッと勢いよく鼻水をかんだ。
トレローニー先生には悪いが、ここのところ面白い事が続かなかったクリスは、つい下を向きつつ笑いをこらえるのに必死だった。その隣で、ハリーとロンも同じように忍び笑いを耐えていた。
「先生、もしかしてアンブリッジ先生が――」
「その女の名前を、あたくしの前で出さないでいただけます!?」
そのセリフを聞いて、思わずクリスの口から笑い声が漏れた。これは決定的だ。きっと査察の結果で、インチキ占い師とでも馬鹿にされたのだろう。それを想像しただけで、クリスは笑いをこらえるために全力で腹筋を酷使しなければならなかった。
それから授業の間ずっと、トレローニー先生は暗闇の中ブツブツとアンブリッジに対して呪いのような言葉を吐いていた。