第2章 【癒せぬ傷】
見たくないと思っていた左腕の痣だったが、いざ隠すとなると、何だか不自然な気がする。それに腕輪と言うより、なんだか手枷の様だとクリスは思った。
クリスがベッドの上で悶々としていると、階下から大勢の人の声が聞こえてきた。やっとハリーが来たのだと思ったクリスは、部屋を飛び出して玄関ロビーまで駆けていった。
だがそこにハリーの姿は無く、代わりに箒を持った大人たちが10人ほど立っていた。その中にはルーピン先生の姿もあった。
「やあ、クリス。今日は気分が良いのかい?」
「えぇ……まあ。それより先生、ハリーは――」
「これから迎えに行くところだよ。大人しく待っていてくれるかい?」
「は、ハイ!!」
ハリーが来る、そう思っただけでクリスの胸が躍った。そして、いつハリーが部屋を訪れても良い様に、クリスは自分の部屋を掃除する事にした。
窓を拭き、シーツを取りかえ、床をモップで磨いていると、誰かが部屋をノックした。きっとハリーだ!クリスは勢いよく扉を開けた。
「ハリー!待ってた――」
しかしそこに立っていたのはハリーではなく、ハーマイオニーとロンだった。クリスは少しがっかりしたが、慌てて笑顔で取りつくろった。
「どうしたんだ?2人とも」
「今日、ハリーの誕生日でしょう?ウィーズリーおば様に教わって、3人でケーキを焼こうと思って」
「それに、バースデーカードも皆で書こうと思ってさ。ほら、これ君の分」
ロンが1枚のカードと色とりどりのペンを差し出した。シンプルなカードだったが、満足に屋敷から出られない身としては、これでも一生懸命考えた末のアイディアだ。
クリスは2人の提案に乗り、カードとペンを文机に置くと、一緒にケーキを作るため厨房へと下りて行った。
どうか今日と言う日を、ハリーに喜んでもらう事だけを祈って――。