第18章 【抉られた傷跡】
10月の最初の週末、それが今学期初めてのホグズミード行きの日であり、計画の初日でもあった。ハーマイオニーが言うには、他にも興味がありそうな人を秘密裏に集めたらしい。
ハリーは少し緊張しているみたいだったが、それ以上に心配事があった。それは他でもない、シリウスの事だ。
例の暖炉出現以降、シリウスからの音沙汰はさっぱりだった。
ハリーはシリウスが我慢しきれず愛犬スナッフルとして、ホグズミードに現れるんじゃないかと心配していた。
「まあシリウスの気持ちもわかるけどね。12年間の獄中生活に加え、2年間の逃亡生活、そしてまた軟禁生活。それもあの薄暗い屋敷に、これまた薄気味悪い屋敷しもべと2人っきり。僕なら外出のチャンスは逃さないけどな」
朝食の席でロンがそう言うと、ハリーはますます心配そうに眉をひそめた。余計なことを言ったロンに対し、ハーマイオニーが強く肘で突いた。
「心配しないでも大丈夫よ、シリウスだって分別のある大人なんですから。まあ……ちょっと向こう見ずな所もあるかもしれないけど……。とにかく、今日は計画の第1日目よ。余計なことは考えず、集中しましょう」
ハーマイオニーの言う通りだったが、ハリーは納得しきれない様子で、ホグズミードに行く道中ずっと下を向いていた。
よほどシリウスの事が気になるのだろう。
クリスはハリーの気持ちも分からないでもなかった。
1カ月近く寝食を共にしてきたが、シリウスはかなりの寂しがり屋だ。と言うより、長い獄中生活で人恋しいのかもしれない。
でなければわざわざ大の大人が15歳の少女の部屋に添い寝に来たりしないだろう。
そんな事を考えつつ、クリスもついつい辺りを見回しながら街を歩いた。
郵便局の前を通り過ぎようとした時、先導していたハーマイオニーが足を止めた。
「ちょっと待ってて、私、手紙を出してきたいの」
「なんで学校から出さなかったんだよ?」
「速達で出したかったの。彼、来週は試合で忙しいって言っていたから」
「彼!?試合!?もしかしてハーマイオニー、手紙の相手って――」
「そうよ、ビクトールよ。何か文句ある?」