第13章 【PMCS】
傷は書けば書くほど深くなり、痛みが増していったが、ハリーもクリスも一言も声を漏らさなかった。やがて夜も更け、アンブリッジが止めるように言う頃には、ペンを持つ手の甲には赤いミミズ腫れが出来ていた。
それを見て、またもアンブリッジはガマガエルそっくりな顔でニターっと笑った。
「まあまあですね。今日はこのくらいで宜しい。明日も今日と同じ時間に来て、書き取りの罰則ですよ」
ハリーとクリスは廊下を出て、アンブリッジの部屋から十分離れるまで会話も交わさなかった。
談話室に戻って来て、クリスが暖炉の前のソファーにドサッと身を投げ出すと、ハリーが傍にやって来て、小さく呟いた。
「ごめ――……」
「何も言うな、ハリー。大丈夫だから、何も言うな」
分かっている、全ては身から出た錆だ。ハリーが責任を感じる必要は微塵もない。だがそれがうまく言葉にならなかった。
クリスが深い溜息を吐くと、ハリーは暫くそのまま傍に立っていたが、やがて小さな声で「お休み」とだけ言って男子寮の階段を昇って行った。
その足音を聞きながら、クリスはボーっとソファーに身体を沈めたまま、精神的疲れが出たのかウトウトと浅い眠りに入ってしまった。
夢の中で、クリスはもう一人の自分を見ていた。黒い髪、白い肌、紅い瞳、トム・リドルと瓜二つな自分が、高笑いをしながら杖を手に緑色の閃光を放っている。
その閃光が一人の男――父と呼んだ男を貫き、男がゆっくりと倒れる様を見て、クリスはガバッと跳ね起きた。
「はあっ……はあっ……」
呼吸が落ち着かず、頭が痛い。額に手をやると、脂汗をびっしりかいていた。
いったい何度こんな夢を見れば良いのだろう。いつまでこんな夢を見れば良いのだろう。1年先、10年先、いや、死と言う贖罪の時が訪れるまで、永遠に――。
「――…父様、私は……」
答えのない答えを求めて、クリスは小さく呟いた。それからクリスはどうしても眠ることが出来ず、そのまま談話室で朝を迎えた。