第12章 【LOST】
廊下を歩きながらクリスは「誰がこんなもの馬鹿正直に持っていくか」と毒づいた。
こんなものは燃やしてしまい、図書館にでも行って“人生の役に立たなさそう”な本を探しに行こうと画策し、杖を一振りした。
――が、何も起こらない。久しぶりに魔法を使うので、感が鈍ったか、と思い。もう1度振った。だが、またしても何も起こらない。
ちょっと嫌な予感がしつつも、今度は術のイメージを強く持ち「インセンディオ」と呪文を唱えた。だが、何も起こらない。
途端に、つま先から頭の先まで鳥肌が立ったような不気味な衝動が駆け巡る。
今度はメモ書きを掌に乗せると、「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」と唱えた。だが、掌のメモ書きはピクリとも動かなない。
焦る中、メモ書きに魔法でもかけてあるんじゃないかと勘繰ったクリスは、杖をしっかり持ち、「ルーモス」と唱えた。だが杖の先には、明りの気配すらない。
「ルーモス!ルーモス!ルーモス!光れ!このっ!このっ!このっ!」
どんなに呪文を唱えても、どんなに杖を振っても、何の変化もない。杖の先からは、火花1つ出て来やしない。
まさか――その結論に至ったとき、クリスは頭が真っ白になって思わずその場に脱力した。
「魔法が……使えない――」
もう何も失うものはない。そう思っていたのに――。手から滑り落ちた杖が廊下に転がった音が、非現実的なものとなって頭の中で響いていた。