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ハリー・ポッターと沈黙の天使

第1章 The summer vacation ~Sirius~


 『それ』が始まったのは、夏休みに入ってすぐだった。家に帰る事を許されず、ウィーズリー家で過ごす事になってからだ。
 『それ』はまるで羊皮紙の上に落とした一滴の染みのように小さく、だが確実にクリスの心を蝕んでいった。

 ウィーズリー家では、気を使ってくれたのか、狭い家なのに1人部屋を与えてもらえた。
 しかし気の使い過ぎと言うのか、家族は皆まるで腫れものを扱うかのようにクリスの顔色をうかがった。それが苦痛になり、やがてクリスは部屋から一歩も出てこなくなった。
 暗い部屋の中で、クリスは黒い影のような『それ』を目にした。『それ』はだんだんと大きくなり、クリスに向かって語りかけてきた。

『クラウスはお前の所為で死んだ、クラウスはお前の所為で死んだ……』
「うるさい、黙れ。黙れっ!」
『お前は呪われた子だ、お前は呪われた子だ……』
「違う、違う、違うっ!!」

 いくら口で否定しようとも、『それ』は消える事は無かった。寧ろ日が経つにつれ影は濃くなり、ダンブルドアの用意したアジトに移動する頃にはおぼろげだが形を成してきた。

 ダンブルドアの用意したアジトとは、正確に言えばシリウスの実家だった。外観こそ違うが、雰囲気はサンクチュアリの屋敷を思わせるゴシック様式の家で、中はいかにも純血主義でございますと言わんばかりの陰鬱な雰囲気を醸し出している。
 住人は誰もおらず、年老いた1匹の屋敷しもべが住んでいる寂しい場所だった。

 そこでもクリスは1人部屋を与えられた。クリスは鍵をかけて、明かりもつけず暗い部屋の中で『それ』と対峙していた。
 折角ウィーズリーおばさんの用意してくれた食事にも殆ど手を付けず、だんだんクリスの身体はやせ細り、意識も曖昧になってきた。

 アジトに越してきて1週間もする頃には、『それ』は完璧な姿を成してクリスの前に現れた。
 ――そう、他の誰でもない『例のあの人』の若かりし頃、クリスとそっくりなトム・リドルの姿を成して。
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