第4章 肆ノ型. 共同護衛 ~不死川実弥・伊黒小芭内の場合~
徐々に小さくなる鬼の呻き声は遂に途切れ、それと比例するように影は刹那の日輪刀へと吸い込まれるように戻っていく。
影が離れた場所には崩れかけの頭部だけを残した鬼の姿。
その頭部さえ数秒もしないうちに風に吹かれて消えた。
『これにてお終い、サヨウナラ。』
刀を鞘に納めながら刹那が言う。
振り向きざま放心状態の貴恵へと向けた笑顔は、もう穏やかな表情へと戻っていた。
「な、んだ、あれは....」
安堵からか再び泣き出した貴恵を慰める刹那を見ながら、伊黒が言う。
理解できないのは煉獄や不死川も同じだ。
今しがた自分達の目の前で起きた事が、現実であるのかすら疑わしい。
そう思ってしまう程の圧倒的な力。
「呼吸かよありゃァ...」
「呼吸のようだが、それよりもっと異質だ!宵の呼吸と言うのも初めて聞いた!!」
「どうやって首を切ったのだ。それにあの影...俺には血気術のように見えたが。」
生きているように意志を持った影。
自分達が動く必要も無く、全てが終わってしまった。
被害は最小限。
そして何より依頼人の思いを尊重した刹那。
先程まで刹那を目の敵にしていた不死川ですら、簡単に理解してしまった。
(こいつは何か、今まで斬ってきた鬼とは違うのかもしれねェ...信用しても、いいのか?)
刹那の人柄や、文句のつけようの無い力を目の当たりにして
煉獄や伊黒が3日と経たず刹那に心を許した理由が、
今わかったような気がしたのだ。
「おい煉獄、伊黒」
「む!?」
「何だ不死川」
不意に吹いた風が肌に心地いい。
こんなに穏やかな鬼殺後などいつぶりだろうか。
「俺にもお前らの気持ちが分かったみてェだ」
不死川の口元が少しだけ緩む。
認めてしまえばこんなにも当たり前のように胸にすとんと落ち着く。
不死川の言わんとする事が分かったのか、煉獄はにこにこと笑っているし
伊黒は目を閉じて不思議な女だな、等と呟いている。
「たまには鬼を信じるってのも、良いのかもなァ」
言った不死川の言葉は、静けさを取り戻した夜の闇に消えていった。