第16章 因中有果
『そう?恵にはいつも嫌な顔されるんだけど』
「あ、それぜってー照れ隠し。ここだけの話、伏黒のやつなまえさんのことになるとすげームキになんだぜ。なまえさんのこと大っ好きなのバレバレ。この前もメイド喫茶行った時にさ―――」
『メイド喫茶?』
「……あ。やべ、これ伏黒になまえさんに言ったら殺すって言われてたんだった。ごめんなまえさん、今のマジで聞かなかったことにして!!」
『あはは、わかったわかった。ふふ、青春してるようだね』
必死に懇願する虎杖に、なまえは嬉しそうに笑った。早く伏黒たちに、元気な虎杖の姿を見せてやりたい。そんなことを考えていれば、ふと、虎杖の目の下の傷がぱっくりと割れた。
「―――オイ、女」
目の下の傷から現れた口から発された宿儺の声に、なまえは目を見開く。虎杖が慌ててパチン、と頬を叩いた。
「あっ、ごめんなまえさん。コイツたまに出てくんだ」
『おや、愉快な体になったものだね』
関心したようにそういえば、反対側からまたその口が現れ、開かれた。
「―――何故オマエのようなモノがそちら側にいる?」
宿儺の問いに、なまえは変わらずほほ笑んだまま。虎杖が再び慌ててもう片方の頬を思い切り叩いた。
「何言ってんだコイツ。なまえさん、ごめん」
『いいや、構わないよ。むしろ両面宿儺と話せるなんてなかなか貴重な機会だからね』
「そなの?五条先生も言ってたけど、コイツ相当凄い奴なんだな。でも、そちら側ってどゆこと?」
不思議そうに首を傾げる虎杖。宿儺はそれきり口を開くことはなかった。そんな虎杖に、なまえは変わらずほほ笑みながら続けた。
『両面宿儺クラスになると、私にも言動の全てを理解するのはちと難しいな』
「あー、そっか。意味わかんねーよな、相当昔に生きてた奴のことだし」
納得したように頷く虎杖に、なまえは小さく呟いた。
『……そのうちわかるさ』
小さくぽつりと呟いた声は、誰に届くでもなく。スクリーンで流れ続ける映画の音に紛れて、そっと消えたのだった。