第1章 01. 白銀の世界
[01. 白銀の世界]
降り積もった雪にはべったりと血が付着しており悲痛な声と共に赤い鮮血が宙を舞った。切断された片腕は血を撒き散らしながら地面に叩きつけられる。ぶち撒けられた大量の血の雨を頭から浴び恐怖から逃げ出そうとすると千切れた下半身が真横に落ちていた。様々な箇所の骨が折れ皮膚を突き破り降り積もっている雪の大地に血だまりを作る。怒りと悲しみと恐怖で涙が頬を伝い肩を揺らした。
「グオオオォオ!!」
人の声とは思えない獣じみた咆哮に呻き声。目の前にいる男性を正面から見つめると牙のような口と両手の鋭い爪からは血が滴り落ちている。噂に聞いたことがある人喰い鬼が頭を過った。頭が割れるように痛く体が震え息をする事さえ苦しい。それでも突然の悲惨な死を迎えた両親の身体を見ると怒りが沸き上がり人喰い鬼を睨み付けた。それに気付いた鬼は鋭く尖った爪を振り翳して来る。
ーーー殺される。
逃げなくてはならないのに恐怖から涙を流し体の震えが止まらない。死ぬんだと絶望したがこのまま愛する両親と同じ場所へ逝けるのだと身震いする。恐怖と苦悶に表情が一瞬歪んだがそう思った瞬間に歓喜に変わった。
ーーー殺して欲しい。
目の前にいる血だらけの人食い鬼に両手を差し出したが、それは叶わなかった。鬼は駆け付けた男性に頚を斬られ生き絶えてしまったのだ。
『ーーーっ』
一瞬の出来事に呆然と立ち尽くす。静寂の中に血だまりの跡だけが残った。どうして助けたのと悲観し嘆く。屍が累々と横たわる白銀の世界で私は泣き喚いた。その有り様は起きている時には生々しく思い出されるのに何故か夢には現れて来なかった。