• テキストサイズ

徒然なるままに。【オリジナル短編集】

第3章 貴方と紡いだ夜の詩


□貴方と紡いだ夜の詩




「今日も天国が呼んでるね。」
『阿呆か、俺たちを呼んでるのは地獄だよ。』



夜の街に男と女1人つづ。
ワイシャツまで真っ黒なスーツ着た2人は
それだけ言葉を交わすと静かに歩みを進める。

_____カツン カツン。と靴を鳴らしながら
歓楽街の裏手の廃墟ビルの外階段を登る。


女は黒髪をひとつに行儀よく括っている。

ゆらりゆらりと揺れるそれは馬の尾の様に
光沢があり、時が違えば 烏野濡れ羽色。などと
皆から褒められるものだろう。


「ねぇ、優 ?私、あなたが好きよ。」


それにクスクス笑う男はヒョロりと背が高く、
手入れの行き届いた女の髪と色こそ揃いだが
その黒い髪は酷く傷んでいて、
目は死んだように光がなく何とも覇気がない。


『俺もだよ、雫。お前が好きだ。』


2人は時々それだけ伝え合う。
特に付き合うわけでも色事を楽しむでもない。
それだけ伝え合う。純粋に、それだけを。


「ほら、天国じゃないの。」


それが性が混沌するこの時代。

それがどれほど貴重で美しいことか。
それを知る者は
薄汚れた世の中そう何人も居ないだろう。

/ 34ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp