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【短編集】倉庫【雑多】

第5章 クロユリ2(五条悟)


多忙な割には、先生はちょこちょこと私に会いに来てくれた。
うっかり拾ってしまった犬猫の感覚かもしれないが、何故かその度にお土産だとお菓子を渡され、何か思い出したかどうかなど雑談を交えて聞かれる。
お母さんがいなくなってからすっかり落ち込んでいた私は、本当にチョロいと思う。
来てくれるのがとても楽しみな存在になってしまった。
(厄介な拾い物したくらいにしか思われてないだろうに……)
自分で頬をぺちぺち叩きながら、持ってきてもらったお菓子を一口食べる。
ホワイトチョコレートにコーティングされたバームクーヘンは、とろけるように美味しかった。
「あの、先生は忙しいんですよね…!
思い出したらこちらから言いますので、そんなこまめにいらっしゃらなくても……」
「僕が来るの、迷惑だった?」
柔らかいのにどこか押しの強い言い方に、そういうつもりではないと伝える。
先生はぐっと身を乗り出して
「前も言っただろ?
るるちゃんに会いに来ただけって」
と甘く囁くように言われる。
「……」
前はそこまで思わなかったその発言に、急に動揺してしまった。
からかわれているだけだと自分に言い聞かせ、なんとか会話を繋げようと必死に言葉を探す。
「えっっ、と……」
照れのような羞恥心と、脈がぎゅっと縮まるような、恐怖心に近い感情がふつふつと脳内を支配していく。
以前のようにそっと手を繋がれ、唇を楽しそうに弧を描く。
「指先は冷たいのに顔は赤い…、意識してくれてるの?」
「…っ!」
その言い方がどうにもくすぐったくて、これ以上は目を合わせられなくなり、ぎゅっと強く閉じた。
すぐそば、鼻の先でも感じるような距離で、くすくすと笑う細やかな声が聞こえる。
「覚悟が決まってるってことで、いいのかな?」
「え…!な、なんの…」
焦って返答した矢先、唇にやわらかいものが触れた気がした。
「!!!」
思考が停止しようとした瞬間、またバチっという大きな音と共に青い光が走る。
「忘れてた、そういえばそんなセーフティガードがついてたね」
光は小さな刃となり、先生の目隠しを切る。

一瞬のことで驚いたけど、しっかりその美麗な顔を見た。
瞬間、昔のことを思い出す。
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