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【短編集】倉庫【雑多】

第4章 クロユリ(五条悟)


「やあ」
「!!」
「お土産は気に入ってくれた?」
「お土産…?」
手に持った本をよく見ると、本屋のカバーを付けただけの箱に入ったお菓子だった。
「ふえ…」
「どうぞ召し上がれ」
口元だけはいつも満面の笑みだ。
なぜか私の部屋なのに遠慮するなと座るように促され、ゆっくりと腰を下ろした。
「先生…ご用件はなんでしょうか…?」
「るるちゃんに、会いたかったから」
軽率に柔らかく楽しそうに言われた。
「そうですか…」
「クールだね、手まで繋いだ仲なのに」
初めてこの部屋に連れてきてもらった時ことを思い出し、顔が熱くなる。

先生はスゴイヒトでスゴイ忙しいという話だけ、どこかで聞いたことがある。
それなのに、貴重なその時間を私に使っていることに関しては、本当に残念な頭で申し訳ないけれども、少しだけ嬉しく思ってしまう。
孤独が続くと、こういう点でとても弱くて、本当に情けない。
こういうのをチョロいとか言うんだろうか…。

「研究者が何人か指輪を見てみたいそうでね、また外してみてくれないかって」
「…あ、はい」
あの日から外れなくなってしまった青いプラスチックを見つめる。
ゆっくり外そうと力を入れるが、まるで指と一体化してしまったかのようにびくりとも動かない。
子供用とはいえ、そんなキツくもない。
普通の指輪ならするりと外れているだろう。
なのにそれは、頑なにそこを動かなった。
「す、すみません…外れないです…」
「固執されてるねえ」
先生はくすくすと笑い、私の指に触れる。
その瞬間、ばちっと電撃が走るように青い光が散った。
「ほんと、妬けるな」
先生はどこからか取り出したペンチを見せてくる。
「先生…それは…いやです…!」
手を離そうとするも、がっちり捕まれていてとても私の力では振りほどけない。
「いや…いやです…!!」
その鋭い金属が触れた瞬間、稲妻のような光がどこからか落ちてきて、ペンチを弾いて畳に転がした。
先生は瞬時に避けて、既に私と大きく距離をおいている。
「ワガママなおもちゃだねほんと!」
落とした物を拾いながら、また楽しそうに笑われた。
「しょうがない、今度一緒に行こう」
肩をすくめてやれやれと大袈裟にポーズを取る。
それに対して私は了承するしかなかった。

「早く思い出してよ、それくれた嫉妬深いヤツ」
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