第3章 市丸裏夢
それからどれだけ時間が経ったのかは良く分からない。目を覚ますといつの間にか風呂ではなく布団の上に居た。着物はちゃんと着ているし、額には簡易的な氷嚢が載せられていてひんやりして冷たい。
「あ、起きはった?」
「うん…私気絶したの?」
「せやよ。風呂ん中そこそこ熱かったしなぁ。逆上せたんやろ。水飲む?」
「貰うわ。」
身体を起こし、差し出されたグラスに波々と注がれた水を一気に喉を通す。
そっか…私のぼせたのか…。
グラスを両手に持ち視線を落とす。この事後の虚無感だけはいつまで経っても慣れなかった。また今日も都合のいい女になってしまった。まぁ、そもそも彼は女にモテる。その中気を引けただけでもラッキーだと思うようにしておこう。
「何ため息ついてはるの?」
「別に。泊まってって良いですか?」
「当たり前や。一緒に寝よか。」
ギンは布団を捲り隣へ身体を滑り込ませた。さも当然とばかりに片腕が腰へ回され隻腕を頭の下に敷かれる。顔が近い。相変わらず腹立つくらい顔は良い。
「何、ボクの顔に何かついとる?」
「いいえ、顔は良いのに何でこんなに性格が悪いんだろうと思っただけです。」
「え、褒めると見せかけて貶しとるだけやよねソレ。」
「良く分かりましたね。」
「キミは終わった後ホンマにドライやなぁ。ボクの事嫌いなん?」
「…そんな事。」
嫌いな男に抱かれて平然としてる女なんてこの世に居ないだろう。何となく気まずくなって視線を落とす。すると、腰へ添えられていた手が前へ回され、へその下をゆったりと撫でた。
「何ですか?」
「いや、中々出来へんなと思うて。」
「何が?」
「ボクの子。」
「…は?」
「え?」
お互いキョトンとした顔で視線が絡む。何の話だ。別に私達は子供が欲しくて身体を重ねた覚えは無い。都合のいい相手として彼と関わって来たのだ。だから言っている意味が全く理解できなかった。
「…市丸隊長、貴方私の事孕ませるつもりで抱いてたんですか?」
「え?他になんやと思うてたの?」
「は?…いや、性欲処理で呼んでるだけでしょう。私達は所謂セフレというやつなのでは?」