第6章 Ohno.
5年前。
実の姉が飛び下り自殺して
亡くなってしまった。
原因は父親からの暴力。
影で言われ続けていた姉ちゃんは、
何の相談もしてくれずに死んだ。
さようなら、ごめんね。
たったその一言だけを残して。
「ごめんねっ、智」
姉ちゃんとの言葉が、重なったんだ。
歩き出す姉ちゃんの手を掴み、
抱きついていた。
「…行くなっ……一人にしないでよっ…」
あのとき気づいてやれてたらって、
ずーっと思っていたんだ。
悲しくて、毎日泣いて。
それでもどこか埋まんなくて。
「さ、とし…?」
「なんでも、するっ…」
なんで死んだんだよ、
俺が隣に居たのに。
なんか言えよ、笑ってねえで。
姉ちゃんは、同じだった。
いつも笑っていて。
文句一つ言わない。
ごめんね。
素直じゃなくて、
「行かないよ。お姉ちゃんだもん。」
代わりなんか要らない。
"姉ちゃん"は一人しかいなくて。
今の姉ちゃんも姉ちゃんなんだから。
笑いながら泣くことに、
意味はなかった。
笑い続ける事に、
意味はなかった。
「さ、ご飯だよ」