第1章 もう、泣かないで
那田蜘蛛山の一件後。
「明日になればまたあの苦い薬を飲まされるのか・・・」
そう独り言ちて、俺は寝返りを打つ。
蝶屋敷での養生中、時折夜中に目が覚める事があった。
それは、昼間もずっとやる事も無く寝台に横になっているからなんだけど。
同室の伊之助の鼾が今日もやかましい。
あいつも俺と同じくずっと寝台の上に寝たままだったのに、まだ寝眠れるのか。
眠れる獅子。いやこいつの場合は猪なんだけど。
炭治郎は怪我が治りきる前に立ち上がり、身体に鞭打って日々の訓練に励んでいる。
ようやく体力の戻った俺も、最初のうちは三人一緒に訓練場へ出向いた。
最初の方こそ俺にとっては天国だった。
女の子には触れるし触られるし!
だけど、そんな日は続かなかった。
どんなに挑んでも全く歯が立たない訓練相手のカナヲちゃん。
俺よりか弱く見える女の子に打ちのめされる日々。
激昂に近い叱咤の槍を容赦なく投げつけて来るアオイちゃん。
改めて自分の弱さを思い知らされた俺。
心だって、強くない。むしろ弱虫なのは自分が一番よく判っている。
へこたれない要素が無かった。やっぱり俺には無理だったんだ。