第1章 もう、泣かないで
夜明けまで、まだ時間がある。
こうして俺は、落雷で変色した髪の話や、それまでの話、鬼殺隊に入ってからの事や同期の炭治郎達とのやりとり。彼女が不安にならないように、楽しい話題を選びつつ話した。
時折相槌を打ってくれるが、喋っているのは勿論殆ど俺。
だけど、どこか遠い国のおとぎ話でも聞いているかのような彼女の目は、俺の一挙一動を逃すまいと捕え続けていた。
その顔を見たくて俺は喋りまくった。
それから数刻経ち、気が付けば鳥の鳴く声が微かに聞こえた。
朝が、来た。
「そろそろ、行かないと。俺がいつまでもここに居たら色々まずそうだし」
一瞬、残念そうな表情を浮かべた彼女が頷く。
「また、ここに来てもいい、よね?」
「本当?本当に・・・?」
「うん、約束」
そうして俺達は牢越しの指切りをする。
去り際、背中を向けた俺に、彼女の声が待ったをかける
「あの、あのね、私の名前・・・小乃実」
「教えてくれてありがとう。それじゃあ小乃実ちゃん、またすぐ会いに来るから!」
来た時と同じように、誰かに見つからないようにそっと病室を目指す。
朝日が眩しく顔を出し、廊下を照らしている。
このほんの距離を行けば、彼女は日の元に行けるのに。
胸が痛んだ。
だけど、それよりも先に俺はやることを見出していて、
自分を鼓舞する様に大きく深呼吸をした。