第1章 その顔は、ただ俺を煽るだけ。
「ね、今年のクリスマスはうちでパーティーしようよ!」
今週末に控えたクリスマス。
既に街はクリスマス一色になってしばらく経つというのに、その日どうするかまだ決めてないからと、学校帰りに近くのカフェで会議中。
おうちクリスマスと言えばビーフシチューかな。ポテトサラダを雪だるまにして盛り付けるのもいいかも!と一人勝手に盛り上がっていると、ふと、視線を感じて目線を前に戻す。
「快斗?どうしたの?顔になんかついてる?」
「あー…いや。ちょっと考え事を、な?ケーキはオレが買ってくとして。当日、ちいっと頼みたいことあんだけど、いい?」
にっこり笑顔で首を傾げる快斗に、思わず口元が引き攣る。
あ…あざとい。
大抵この頼み方をするときは、普通に頼んでも私に断られるとわかっているときだ。
毎回私が負けて、結果、恥ずかしい思いやらをしてきたわけで。
今回こそは断ってやる!と気合を入れて快斗の顔をみると、今度は捨てられた子犬のような目をしてこちらを見ていた。
「……だめ?」
え。何その顔。何その声!
いやいや。だっていつも快斗が変なお願いするから嫌なんじゃん!
くそ、あざとい!この数分でかわいい安売りすんな!
昔はあんなに素直でかわいかったのにすっかり計算高くなっちゃって……と、またも彼のかわいさに負ける自分に心の中で泣きながら「いいけど…」と答えると、満面の笑みで快斗が席を立つ。
慌ててその背中を追いかけると、じゃーオレ準備あっから!と走って行ってしまった。
まぁきっと、快斗のことだから私ができないようなことは言ってこないはず。そんな呑気なことを考えながら、だんだん小さくなる背中を見送った。