第3章 春日山城の友達
「え…?」
突然のことに驚いて、自分を抱きすくめる相手を見上げると
「信玄…さま…?」
「随分元気になったな。良かった」
色めいた瞳の信玄様が微笑みを浮かべて、私を見つめた。
その瞳に引き込まれ、思わずその瞳を見返す。
「おい。何事だ?」
「謙信様…!」
部屋の外から冷たく感情のない声が聞こえたあとに、私を追ってきた女中さんの声がする。
「そ、それが…」
「なんだ?はっきり言え」
恐怖のせいなのか口籠る女中さん。
女中さんのはっきりしない言いように、声の持ち主に苛立ちが滲むのが分かった。
「じ…実は…」
「謙信、すまん。俺だ」
震える女中さんの声に、私を抱きかかえたままの信玄様が部屋から出る
「…信玄……?」
胡散臭そうに目を細めて私と信玄様を見据える、一人の男。
越後の龍…この人が上杉…謙信
左右微妙に違う瞳のせいか冷たく見える
「俺が姫を勝手に連れ出したせいで、女中が驚いて探しにきたようだ。」
「信玄様…」
女中さんが口元に手をやり小さく呟く
「…?!ち…ちがっ……」
「麗しの姫君と逢瀬を交わしたくてな…」
言いかけた私の言葉をかき消すように、そう言ってグイッと腰を引き寄せると耳元に口を寄せ「黙って…」、と小さく囁いた
「…信玄…。貴様、戯けたことを言ってると斬るぞ。」
スラッ
上杉謙信は刀を抜くと信玄様にその白い刃をむける