第22章 裏切りと同盟
「……くっ」
銃弾が掠めた腕を抑え、信長がかすかに息を漏らす。
さらに降り注ぐ銃弾は、敵味方の区別なく、たちまち野原を血で染める。
悲鳴を上げ次々と野原に倒れてゆく、両軍の兵
喧騒の中で、信玄がはっと目を見開いた。
「っ……まさか……! 謀ったか、顕如–––」
信玄はぎり…と奥歯を噛みしめ、
「引け! 走れ」
大音声がとどろき、武田軍は一斉に退却する。
「こちらも退却だ。ついて来い」
撃たれた腕から血を滴らせたまま、信長も兵を率いる。
引いていく両軍を、砲撃は尚も追いかけ、次々と兵が倒れた。
「っ……」
信玄の背中にも銃弾が掠め、その身体が衝撃で前のめりになるけれど、そのまま足を止めることなく走り去っていった。
…………
尾瀬の上から、眼下を見ていた顕如が硝煙の煙の中で呟く。
「この世の地獄だな、ここは。錫杖に刃を仕込み、血染めの法衣を纏う覚悟を決めた日々の中でも–––今日この日ほど、暗鬱とした気分に陥ったことはない」
「顕如様……もうお下がりになってはいかがでしょう。ここは我らだけでも」
かたわらで控えていた顕如の部下が、痛ましそうな視線を向けるけれど……
顕如の横顔は、すでに酷薄なものに戻っていた。
「いい、捨て置け。己の罪くらい、背負う用意はとうにできている」
微動だにせずにたたずむ顕如の法衣を、風がはためかせていた。
…………