第1章 甲斐の虎
「いや、あの謀反の首謀者は別にいる。」
「でも、あの場に武田信玄がいましたよね?」
「あぁ…居たには居たが、あれはどさくさに紛れて姿を現わしただけだろう。信長様に自分たちが生きてると言うことを知らしめるためだ。」
壁に寄りかかった光秀さんが静かに言って、閉じていた目を開けた。
「信玄でしたら小さな大名を使って謀反など起こさせず、ご自分が正面切って正々堂々と来るでしょうからね。」
私の代わりに書物を探しながら三成君も光秀さんの話に賛同した。
「挨拶がてら来たんだろ。生きてることを知らしめ、またいつでも戦を仕掛けられるってことを言いたかったんだろうな。」
光秀さんの目が妖しく光る。
首謀者は別…
それを聞いて、私は自分がホッとしていたことに気づいていなかった