第1章 甲斐の虎
軍議の後、私は日課になっている漢方の勉強をしに、家康の部屋に来ていた。
「家康、排膿散って何に効くの?」
「それは皮膚につける薬。
ゴリゴリ
言われた通りの漢方を煎じ器に入れて潰す。
小さな紙に薬を丁寧に包みながら家康が教えてくれた
「へぇ。皮膚に効くのか〜。芍薬や甘草は炎症に効く…っと」
配合する分量など細かくメモしてると、家康の気まずぞうな視線が向けられていることに気付いた。
「昨日は……」
と言いかけて口籠る家康。
なんと声をかけたらいいのか、迷ってるように見える。
あぁ…心配してくれてるんだ…
一瞬、目を伏せて
困ったような顔をした家康を真っ直ぐに見つめた
「もう…大丈夫だよ。」
その言葉に家康も私を見つめる
「あの時は私のいた時代なら救えるのに…って強く思っちゃって…
自分のいた時代と比べちゃいけないのに…
それが悔しくて、歯痒くて…
私のいた時代でも…病気や怪我治せないこともあるのにね。
医者を目指してるくせにあんなに取り乱して…ごめんなさい。
もっと沢山の人を救えるよう色々教えて下さい。」
吹っ切れたように家康に笑いかけた
「それと…家康…私を連れ出してくれてありがとう」
あの時あの場に残ってもし私が死んでしまっていたら、それは私が自分自身の命を大切にしていないことになる
それは私が目指してるものじゃない