第18章 別れの時
袷に手をやり、信玄様から渡された火打ち袋を取り出すと、あの日の言葉を思い出す
『俺には必要ない』
なんて言ってたけど
これが必要ないのは私の方だ
「……では…信玄様に、これを…お願いできますか」
白檀の匂い袋を帯から外すと、信玄様の火打ち袋に固く結びつける
二度会えなくなっても私という人間が存在したことを貴方に少しでも覚えていてほしい…
貴方が私ではない誰かと結ばれても、どこか…頭の片隅にでも…
……どうか…私を忘れないで
……どうか…この乱世を生き抜いて
信玄様の記憶に少しでも残りたいと思う私は、幸村が言ったように悪女なのかもしれない