第17章 隠された半月、半分の心
「ただいま」
「おかえりなさい。遅かったですね」
「ふっ…君にそう言われると、夫婦になった気分だよ」
信玄様が私を見て、にやりと笑う
「…め、夫婦!!…もうっ…また…揶揄って!」
そんな甘い言葉に、自分の顔が一気に赤くなるのが分かった
少しの沈黙の後
サァッと
開けた障子から微かな風が私と信玄様の間をすり抜ける
「……いい香りだな」
ポツリと呟く信玄様の方を見る
「…え?」
「あの時の白檀か?」
私の帯には城下で買ってもらった、白檀の匂い袋がぶら下がっている
「そうです。とても気に入っているので…いつも身につけてるんですよ」
ほんのり甘い、優しく香る白檀
「そうか。それは贈った甲斐があったってもんだな」
少し寂しそうに笑う信玄様
この時間が永遠に続けばいいのに……
遠くはない別れが私の胸を締め付ける
近く信長様と戦うことになる信玄様
私がその行く末を側で見届けることはできない
せめて…敵同士である二人がこの乱世を生き抜くことを願うのは、私の我がままだろうか…
私たちの関係が寂しく思えて、信玄様の横顔を見つめた