第13章 戦の駒
「謙信様はなぜ戦をするのですか?」
池の鯉を見ながらぼんやりと謙信様に聞いてみる
「決まっておろう。面白いからだ」
その答えに一瞬驚いたけど
あまりに謙信様らしい答えで、思わず笑ってしまう
「ふふっ。謙信様らしい。」
それくらい潔い理由だと逆にスッキリする
「…俺と信玄はかつて五度に渡って戦をした。」
謙信様は誰に言うでもないような、独り言のように話し始め、私はそれをただ黙って聞いた。
「越後と甲斐は距離が近くて、争いも起こりやすかったからな。何度、戦っても結局あいつの戦略に絡めとられて、結局引き分けに終わる。
甲斐の国は裕福な国ではなかったが、あいつと家臣たちの団結力があいつらの強さであったのだろうな。」
信玄様が言っていた…散っていった仲間…
「情報を操り、ただ逃げ回る腑抜けなら俺も相手にせん。だが、あいつが戦場で牙を剥けば誰よりも獰猛だ。俺と違って、あいつには守るべきものがあるから…」
信玄様の守るべきもの…
復讐に囚われて戦してるだけじゃないの…?
「…謙信様には、守るべきものはないのですか?」
「…っふ。俺か?俺は軍神としてこの世に生を受けた。守るべきものなどない。この身が戦で散るのなら本望だ」
何気なく聞いた言葉だったけど、謙信様の色違いの瞳が悲しげに揺れてたように見えた