第13章 戦の駒
「…私を餌にするのなら……ここから逃げます」
「駄目だ」
信玄様を睨む私の腕を引くと、その勢いで信玄様の胸にぶつかる
「君には…分からないだろう……。大切な者たちが、目の前で散って行く姿を見たことがあるか?愛する者を失う悲しみが…君に分かるか…?」
信玄様の声から…悲しみの感情が伝わる
「戦に卑怯も何もないんだ。そこあるのは…守れるか守れないかだけだ。」
返す言葉はもう見つからない
……信玄様は…国を失い…大切な仲間たちも無くした……
平和な世界で生きてきた、私の思いなんて…ただの綺麗事なのかも……
「恨みたければ、好きなだけ恨め…。俺は…あいつに借りがある。それを全部返すまで、死ねないんだよ」
見上げた信玄様の瞳が、冷たく悲しく燃えている
甲斐の虎…獣の瞳だ…
その瞳に纏う、信玄様の殺気にゾクリとする
「……私を餌にしても…信長様は動きませんよ」
何度も言ってるが私は寵姫でもなんでもない
ただの拾われた猫みたいなものだ