第10章 嫉心
「………」
その問いには何も答えられない
ただ…黙っているしかなかった。
「答えられないか…?」
「…私がどこから来たかは、信玄様には答えられません。信長様が私を姫だというなら、それだけが事実なんですから。」
……どこの誰だかわからない、そんな私を受け入れてくれたのは信長様だ…
信長様の命を偶然救ったのは私だけど、、この時代に飛ばされた私を救ってくれたのは信長様だ…
だから、ただの肩入れなんかじゃない…
ただ…私は……別れる前に一言お礼がしたいだけ…
「…ったしは……。」
やっとの思いで口を開く
「…信長様に救ってもらったから……。みんなにも、とてもよくしてもらったんです……。一緒に過ごした時は短くても、私とみんなは仲間…だと思ってるから…」
「仲間…だと?」
「…帰るところもない、素性も分からない私を置いてくれたんです。…無条件で私を信じてくれたんです。安土へ戻れないなら…もう二度会えなのなら…会えなくなる前にせめてお礼だけは…無事だということだけは知らせたい」
家康は…絶対に後悔してるはず……
せめて家康だけにでも…無事だと言うことを知らせたい
もしこのまま何も言わずに未来へ帰ったら…
家康は一生、このことを気にするかもしれない…
鼻の奥がツンッとして、泣きそうになるのを必死に堪えた。
「…二度と会えない…か。」
信玄様にも一瞬哀しみが浮かんだように見えて…
すると、不意に信玄様が私を引き寄せ抱きしめた
すまない…というような、愛おしいものを抱きしめるような
そんな優しい抱きしめ方
ずるい…
そんな優しく抱きしめられたら…
もう…何も言えない……
その優しさから逃れることもできず
涙を隠すように、私は信玄様の胸の中に顔を埋めた。
「責めるようなことを言ってすまない。せめて…、君に安土へ帰る機会を奪ったお詫びをさせてくれないか?」
「え…?」
「今日の夜、開けといてくれ。町に逢瀬に行こう。」
戸惑う私を手離なすと、信玄様は部屋から出て行った。