第7章 満月に浮雲
鼓動が早くなるのを隠して、意を決すると信玄様の隣に座った
「この方が君の美しい顔がよく見える。さて、質問を聞こうか?」
信玄様の本心を知るには………
頭をフル回転させて考えた
この質問しかない
「信玄様は…何のためにに戦をしているのですか?」
私の質問が想定外だったのか、信玄様がちょっと意外そうな顔をする
「私、信長様にも同じことを聞きました。」
「信長に…?」
信玄様は眉をひそめる
こんな厳しい顔…初めてみた
「して、あいつはなんて答えた?」
私を通して、信長様を見てるような鋭い眼差しで目を細める
「自分が見たい世を実現するためだと…」
「あいつらしい、傲慢な答えだな」
信玄様の声には深い憎しみが込められている
「信玄様…は…?
何のために戦ってらっしゃるんですか?」
………………
「ーーー弱者が…虐げられない世を、作るため。
せめて俺の小さな領土の中だけでも、誰一人踏みにじられることなく生きていければいい。……そう思ってる」
ポツリと呟く信玄様の瞳に、哀しみの色が滲んだように見えて私はその横顔から目を離せなくなった
信玄様……?
その哀しげな理由が聞きたくて…
「あの……」
言いかけると、信玄様は空を見上げた
「あぁ。月が隠れてしまいそうだな」
その視線を追い、空を見上げる
雲が……
「今宵はここまでにしておこう。
いい夢を、囚われの姫君」
信玄様がふっと笑うと私の頭を撫でて、立ち去っていった
信玄様のあの哀しげな瞳を思い出すと、なぜか私の心まで切なくなる…
まるで信玄様の哀しみが私の心にうつったように
危険なのは分かっていても、その哀しみのわけを知りたい、そう私は思ってしまうのだった。