第21章 それぞれの道へ
そしてファイアードラゴンは一松を乗せたまま、海の向こうへと飛んで行ってしまった。
新たなる翼が起こした新たなる風は、新たなる世界を造り上げた。そして紅き翼は心優しき残虐なる者を乗せ、いずこかへ飛んで行った。ストーグロックももはやなく、何者にも縛られることがなくなった一松とトド子の姿を見た者は、いない。
「はい、おしまい」
「ねえ、お母さん。ファイアードラゴンはどこへ行ったの?」
「さあ、どこに行ったのかなぁ」
「お父さんとお母さんの名前と同じだね」
「そうね。すごいよね」
「うん!僕ね、大きくなったらドラゴンになるんだ!」
「はっはっは。なれるといいな。でもな、このマンハッタンでドラゴンになったら他の人がビックリして、お前を攻撃するかも知れないぞ?」
「えーー。でも、そうかも」
「さあ、本を読んだら寝る約束よ。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
息子が眠りについたのを見届けた夫婦は、深いため息をついた。
「人間界は、狭いな」
「後悔してる?」
「いや。お前といられるなら、どこでもよかったんだ」
「この世界も、よくなるといいわね」
「そうだな」
「私たちも寝ましょう?」
「ああ、そうしよう。おやすみ、トド子」
「おやすみなさい、いっち」
完