第10章 自我を食らう者
十四松は扉に手をついて、押してみた。が、少しの力ではびくともしない。
「ふんぬ!!」
力を込めると、ぶかぶかなはずの上着の下に、半端ではない筋肉が盛り上がるのが見えた。
ギギギギィー
長年開けられていないであろう音がして、扉が開いた。扉の奥のそのまた奥の玉座に、誰かが座っている。
「あれが頭脳食いか?」
「みんな、気をつけて!頭脳食いの目を見ちゃ駄目だ!虜にされて、自我を食われる!」
「カラ松、頼む!」
「オゥライ!」
再び目を閉じて、カラ松の後に続くおそ松たち。玉座に近づくにつれ、それが頭脳食いではないことに気づいた。
チョロ松と十四松が、わなわなと震える。
「まさか………そんな……!」
「ゴブリン王が…………、ゴブリン王が兄上だなんて…!」
そこにいたのはチョロ松の兄であり、十四松の師匠でもある森エルフ王子、ゼムアだった。
「兄上!!」
「師匠!!」
だがゼムアの目は、今まで見てきたゴブリンたちと同じ、死んだ目だった。
「侵入者には、死を……」
そしてゼムアの横から、頭脳食いが現れた。目を閉じるおそ松たち。
「くくく…っ。何年ぶりかな、愚か者がここに来るのは」
「お前がゴブリンやチョロ松の兄を、操り人形にしたのか?!」
「ならば、なんだ?」
「許さん…!!」
一松が自分の身を省みず、黒魔法を放った。しかし…。
「げひひ!!何だ、それは!」
「がはっ!!」
黒魔法の代償が一松を襲うが、頭脳食いには全く効いていない。
「一松…!」
「一松兄さん、手を出さないで!僕が倒すんだから!!」
「十四松、僕にも手伝わせて!」
「うん、チョロ松兄さん!一緒にやろう!」
十四松は森エルフの勇者の弓で矢をつがえた。
「うぉおおおおお!!」
渾身の力を込めて弦を引く。ギリギリと音を立てて引かれる弦は、ついに引ききられた。
「チョロ松兄さん、僕に手を添えて!」
「うん!」
チョロ松が十四松の手の上に、自分の手を重ねる。
「カラ松兄さん、あいつの居場所を教えて!」
「ここだ」
「幻覚術が効かない奴がいるのか!」
カラ松が頭脳食いの方に弓を向けさせる。だがそれは、ゼムアの横ではない。ゼムアの真後ろに本物がいた。一松の黒魔法が効かなかったのも、そのせいだ。
「行け、チョロ松!十四松!」
「「食らえ!!」」