第8章 レッドアイの宿命 闇エルフの黒魔法
這いつくばる十四松はカラ松を乗せたまま、腕立て伏せを始めた。
「もう一人、乗って!」
「おし!」
おそ松が乗る。それでも十四松は、難なく腕立て伏せをこなしていく。
「すごいな」
「もう一人いけそう!」
「…乗るよ?」
一松が乗った。
「うぉ!来た来たー!ぃよいしょー!!」
「これならあの弓を引ける日も、そう遠くはないな」
チョロ松も感心しながら言った。
「俺、すっげぇ仲間たちと一緒にいるんだな!旅を始めた時はどうなるかと思ってたけどさ、いいもんだな!色んな不安も、吹き飛ぶぜ!」
おそ松の声にカラ松も賛同する。
「ああ、全くだ。今まで悲しんだり悔やんだりしていたことも、全てはお前たちに会うためだったのかと思うくらいだ」
決意も新たに床につき、翌朝おそ松たちはケイトに別れを告げた。
「世話になったね」
「ケイト。兄ちゃんは必ず帰ってくるから、それまで頑張れよ」
すると一人のレッドアイが、ケイトの肩を抱いた。
「カラ松、俺がケイトを守るぜ」
「ジェフ…」
「えっ?お前たち、付き合ってたのか?」
「うん。黙っててごめんね、お兄ちゃん」
「そうか。なら、頼んだぞ」
「任せとけ!」
こうしておそ松一行は、閉目の可視者であるレッドアイのカラ松を仲間に加え、旅を続ける。
道中、一松がカラ松に聞いた。
「カラ松ってさ、光と影はわかんの?」
「ああ、それは分かるぞ」
「じゃあ、背後から来られたら?」
「輪郭しか見えない分、耳がよくてな。後ろから来られても、音で分かるんだ」
「ふぅん。星とか月は?」
「何だ、それは」
光と影は分かっても、星や月、虹などの形がわからないものは見えないようだ。
「よく言われるんだが、きれいとか汚いって何だ?全くわからん」
一松はそんなカラ松を不憫に思う反面、うらやましいと思った。きれいなものを見られない分、誰かの顔色をうかがうということがない。うかがおうにも、顔色がわからないのだから。
「……知る必要は、ないと思うよ」
とりあえず、そう答えておいた。あえて知る必要はない。一松は本当にそう思った。自分の傷だらけの体を、見られなくてすむのだから。
生け贄を使わずに黒魔法を使う代償は、己の身を差し出すこと。使えば使うほど、傷は増える。自分で選んだことだ。後悔はしていない。
