第5章 心優しき残虐なる者
「ね、いいでしょ?」
「ま、まあ、お前がいいならいいけど」
「やったぁ!ありが盗塁王!」
しばらく行くと湖が見えたので、休憩も兼ねて喉を潤すことにした。
「はー!喉、からっから!」
「そこ、気をつけた方がいいよ」
一松が言うより先に、湖に住む魚モンスターに食いつかれるおそ松。
「いてててて!!先に言えよな!!」
「ここ、キラーフィッシュの住み処だから」
「キラーフィッシュ?」
「あは!ご飯作れるね!」
そう言って十四松は湖に近づき、飛んで中央まで移動した。十四松に食いつこうとして、跳ねるキラーフィッシュたち。だが、ギリギリのところで届かない。
「いっくぞー!満塁ホームラン!!」
矢を次々と放つと、その全てがキラーフィッシュの頭を貫いた。生き残りのキラーフィッシュはさすがに危機感を覚えたのか、湖の底へと逃げてしまった。
仕留めて浮かび上がったキラーフィッシュを抱え、戻ってきたかと思うと、刺さった矢を抜き始める。
「レプリコーンって、飛べたっけ?」
「ううん。飛べるように練習したんだ」
「へぇ。ちゃんとしてるね。偉いよ、十四松」
「えへへー。あざっす、一松兄さん!」
おそ松は火をおこし、落ちていた木で串を作り、キラーフィッシュを刺して火の周りに立てた。
「こうしてよく父さんと、魚系モンスターを焼いたなぁ」
しみじみ呟くおそ松の顔は、どことなく寂しそうに見えた。
「どうして母さん、この世界に来たんだろ…」
恐らく、松代本人ですらその答えはわからないだろう。
「でも旅をしてれば、その答えが分かる気がするんだ。とりあえず今分かっているのは、甘えてばかりもいられないこと。それと、仲間がいることのありがたみだな」
「おそ松…」
おそ松はみんなの視線を浴びていることに気づくと、鼻の下を指で擦り、精一杯の笑顔を見せた。
「なぁーんてな!!らしくないよな、こんなの!」
「いや、いいと思う。たまには気持ちをさらけ出さないと、潰れてしまう。俺も正直、怖いよ。旅をして黒魔法を使うことで、自分の体がどうなるのか、わからないから。なるべく使わなくてもいいように、弓矢や剣を覚えたけどね」
おそ松は一松の頭にポンと手を置いた。
「大丈夫だ。俺たちは一人じゃない」