第7章 夏の風 ―ユキside―
練習に集中していれば時間はあっという間に過ぎていく。
午前中の練習のあと、舞たちが用意してくれた昼食を摂り俺たちは束の間の休憩だ。
キッチンで洗い物をしているハナちゃんが目に入るが、舞の姿はない。
何となく気になって、ハナちゃんに尋ねる。
「なあ。舞、どこ行った?」
「え?そう言えば見てないなぁ…」
「勝田さんと出掛けたとか?」
「いえ、買い出しはお父さん一人で行きましたけど」
朝は俺たちより早く起きて朝食の準備。
食事が終われば洗い物。
10人分の洗濯プラス自分たちの洗濯もして、俺たちが練習に出ている間にはコテージ内の掃除までしてくれている。
3人で手分けしているとはいえ、間違いなく疲れる仕事だろう。
「ちょっと上見てくるわ」
このコテージは木陰に建っているため、窓を開け放していれば風通しもいい。
熱中症でぶっ倒れてる、なんてことはないと思うが…。
階段を昇り俺たちが使っている大部屋を覗くが、双子とキング、先輩が仮眠をとっているだけ。
舞たち姉妹の寝室をノックしても返事がない。
バルコニーにもいない。
もう一度一階へ降りて、コテージの裏側へ回った。
物干し竿とガーデンベンチが置かれた庭のような空間だ。
「居た…」
ひとまず無事な姿を確認できて、ホッとする。
伏せられた瞼。
僅かに上下する肩。
一定のリズムで繰り返される、静かな呼吸。
物干し竿で揺れているのは、俺たちが午前中着ていた練習着。
朝イチで干したと思われる乾いた洗濯物が、カゴに山積みになっている。
洗濯のあと、少し休むつもりが寝ちまったってところか。
ベンチに背を預け、気持ちよさそうに眠る舞。
その隣に腰掛けて軽く肩を抱き寄せた。
少し眉間を動かしたものの、舞の体は素直にこちらに傾く。
(寝顔、可愛い…)
肩に感じる愛しい重みはそのままに、ダラリと足を投げ、風に揺れるTシャツをボンヤリ眺める。
なんて穏やかな時間だ。
午前中何十kmと走ってきたことも、午後もまた死ぬほど走らなきゃならないことも。
そんな日常が嘘みたいに、すっぽり切り取られた俺と舞だけの世界。
気持ちよさそうに眠る舞を起こす気になど、とてもなれない。
しばらくこのままでいよう。