第5章 頬を伝うのは…
「キングー!せんぱーい!いいぞいいぞーっ!そのままキープ!」
ハイジくんはすっかり元気になり、今までどおり練習をこなせるようになった。
今もコースを10km走り終えて、到着していないメンバーの声掛けに励んでいる。
数分後、2グループに分けた練習が終わり、全員一旦休憩に入った。
「ハイジくん、体調どう?」
「大丈夫だよ。心配かけたね、ありがとう」
「うん…。大したことできないかもしれないけど、何かあったら言ってね」
ハイジくんは器用だから何でもできてしまうし、行動力もあるから何でもこなそうとしてしまう。
私の今の言葉だって気休めにしかならないと思うけれど、言わずにはいられない。
「舞ちゃんが来てくれるだけで、いつもより頑張れるけどな。俺は」
「え?」
ハイジくんはそれだけ言うと、またコースを走り始めた。
そばにいたユキくんにそれとなく聞いてみる。
「ハイジくんあれからどう?ちゃんと寝てるのかな?無理してる様子ない?」
「……ハイジが大丈夫って言ってんだから、大丈夫なんだろ」
「……うん」
あれ……?
何かそっけない。
しっかり目も合わなかったし、声のトーンだって普段より低くて…。
結局、練習中も練習後も。
ユキくんから声をかけてくれることはなかった。
おかしい、こんなの…。
必要なことだってどうでもいいことだって、練習に来た時に一番沢山話をするのがユキくんだった。
どうして―――。
「ユキくん。はい、水分摂ってね」
「サンキュ」
私からドリンクを受け取っても、すぐに離れていく。
「ねえ!駅前にできたラーメン屋さん美味しいんだって。今度ジョータくんたちや葉菜子と行くんだけど、ユキくんもどう?」
「俺はいいわ」
ごはんに誘っても、乗ってきてくれない。
「……今日、一緒に帰らない?」
「俺もう少し流して帰るから。お疲れ」
練習後二人で帰りたくて勇気を出したのに、目も合わない。
あれからもう10日が経つ。
ユキくんは、明らかに私を避けている。
何だか、心が折れてしまいそう。