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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第4章 焦燥




「舞ちゃん、ユキと付き合ってるの?」


脈絡もなく唐突に向けられた、ハイジくんの言葉。
そんなことを聞かれるとは思ってもみなくて、声に詰まる。
改めて見つめたハイジくんの瞳は、私を真っ直ぐに捕らえていた。

「え…。あ、さっきのジョータくんたちの、アレ?ううん、違うよ。付き合ってない…」

「…そう」

何だろう。チーム内で色恋沙汰があると士気が下がるとか…そんな感じ?
私、釘を刺されてるのかな。

「ああ、別にチーム内での恋愛は禁止じゃないよ」

心読まれてる!?
ハイジくんって飄々としていて、いつまで経っても掴めない。

「舞ちゃんがこの中の誰かを好きになったのだとしたら、俺は…」
「ハイジさーん!明日のレンタカーのことでいいですかー?」

ハイジくんの言葉は神童くんの声に掻き消された。

「ああ、今行くー!今日もありがとう。お疲れ」

「お疲れ様。明日頑張ってね」

軽く手を上げて、ハイジくんは行ってしまった。

何を言いかけたんだろう…。

夕焼けをバックにしたハイジくんを目で追う。
明日は箱根への第一歩。
ずっと待っていた。脚が全快するのを。
ずっと待っていた。メンバーが10人揃うのを。
ハイジくんの目指す道は、もう夢じゃない。

現実なんだ―――。









記録したノートやストップウォッチをしまい、帰る準備を整える。

(ユキくん…。あ、いた)

最後にひと言話したかったけれど、明日のペース配分のことでハイジくんに相談しているみたいだ。

割って入るのも悪いしこのまま帰ろう。


「よっ、お疲れ」

「あ、先輩。お疲れ様です」

声をかけてくれたのは、ニコチャン先輩。

「行けば?ユキんとこ」

「いいんです。邪魔したくないんで」

先輩の視線も、ユキくんとハイジくんに向けられる。
この前は「何のために走るのか」なんて悩んでいたけれど。
何だかんだ言いつつ、やるとなったら本当に真面目な人。
真剣なユキくんの目を見て、改めてそう思う。


「切ねぇな、ハイジは…」

「え?何?」

「いんや。舞ちゃんの矢印はわかりやすいけどなぁ?」

「矢印…」

「ユキ、だろ?」

そう言って、ニヤリと私の顔を覗き込んでくる。


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