第4章 焦燥
「舞、絆創膏ある?皮めくれたっぽい」
久しぶりに参加した練習中。
ビルドアップ走のメニューを終えたユキくんが、息を弾ませながら私に歩み寄る。
「うん、持ってるよ」
練習中はいつも常備しているポーチを、自転車のカゴから取り出した 。
その向こう側。
おしゃべりしていたはずのみんなが、口を閉ざしてこちらを見ていることに気づく。
「今、舞ねーちゃんのこと "舞" つった!?」
「ナニナニ!?何で呼び捨て!?ユキさぁ〜ん!く・わ・し・くぅ〜!!」
ジョータくんとジョージくんが、すかさずユキくんの体に絡みつく。
「あぁーっ!あっつい!くっついてくんじゃねぇ双子!!」
「教えてくれるまで離れないもんねー!」
「ユキさんと舞ねーちゃんって、そういうこと!?」
「そういうことも何もねーよ!俺たち同い年なの!別に普通だろ?」
「えー?でもハイジさんとキングさんだって舞ねーちゃんと同い年じゃん?なのにユキさんだけ舞呼ばわり?」
「呼ばわりとか言うんじゃねぇ。とにかく。大人には大人の事情があんの。子どもは引っ込んでろ!」
「「ぶーぶー!!」」
ユキくんに力ずくで引き剥がされて、ジョータくんもジョージくんも唇を尖らせたまま、まだ何か言っている。
「はい、絆創膏」
「サンキュ。……気にすんな」
「……うん」
私は別に平気なんだけど…迷惑なのかな。
まだイライラしてる様子のユキくん。
何だか、気持ちが灰色に変わっていく。
「よし、今日は早めに上がろう。明日はついに記録会だ。朝は早いからな。しっかり食べて睡眠をとって、万全の体調で臨むように。クールダウンしっかりな」
「よっしゃー!」
「やるぞー!」
ハイジくんの言葉に各々沸き立つ。
サポートできることは多くないけれど、私と葉菜子はこのチームを見守ってきた。
それなのに肝心の明日は、二人とも応援に行くことができない。
「残念だなぁ。本番応援に行けないなんて」
「ハナちゃんはテスト期間だし、舞ちゃんもバイトだもんな?仕方ないさ」
バイト先のファミレスは最近一人急に辞めてしまって、今は多忙。
このところ練習にもあまり参加できていない。