第13章 予選会
王子くんが公認記録を達成してから約3週間。
今日まではあっという間だった。
日差しは、より穏やかに。
風は、より爽やかに。
季節の移り変わりを目や体で感じながらみんなと日々を過ごしてきた。
10月13日。
ついに予選会当日。
天気は生憎の曇り空で、朝のニュースによれば雨が予想されている。
私は葉菜子とお父さん、商店街の人たちと一緒に、会場である昭和記念公園に隣接された陸上自衛隊の立川駐屯地へ向かう。
朝ユキくんに電話をしてみたところ、コンディションは全員良好とのことで安心した。
数日前体調を崩してしまった私を気遣って 、ユキくんはこれからのことを一緒に考えてくれた。
練習への参加が私にとって負担だったのではないかと。
心身に響くようならここで辞めてくれても構わない、と。
ただ私の意思を尊重したいから、正直な気持ちを聞かせてほしい、とも付け加えて。
ユキくんのその心遣いをありがたく受け止めた上で、私はみんなの夢を応援したいと願った。
辞めたくなんかない。
できることなら何でもしたいし、みんなの走っている姿をそばで見ていたい。
葉菜子もハイジくんから同様の話をされたらしいけれど、心は私と同じだった。
これまでどおり一緒にトレーニングに励んでいる。
むしろ私よりも葉菜子の方が、駅伝に対する熱が日に日に大きくなっているように見える。
夏の合宿中、瞳を輝かせながら言ったのだ。
「寛政大に行きたい」と―――。
その言葉の意図するところは、寛政大学長距離陸上部の正式な部員としてサポートしたい、ということだろう。
私は四月から社会人となる。
こんな風に関わることができるのは、今年が最初で最後。
限りがあるからこそ尊い時間だと思う反面、近い未来、またみんなの傍らに寄り添える可能性のある葉菜子を羨ましくも思う。
「あっ、お姉ちゃん!見えてきたよ!」
葉菜子が覗いている車窓からは予選会場の広場が一望できた。
各校のジャージや幟は色鮮やかで、選手に応援団、チアガール、テレビ局のカメラやスタッフなど、人でひしめき合っている。
車を降りる頃になると、頭上には今にも雨粒が落ちてきそうなほど色濃い厚い雲が覆っていた。
それぞれレインコートを持ち、私たちは揃って会場へと歩き始めた。