第12章 共に見る夢 ―ユキside―
あー…これか。舞が前に言ってたやつ。
いいお兄ちゃんなんだけど時々愛情が過剰、とかなんとか。
「はぁ…豪ちゃんうるさい…」
ウザそうな態度をとるハナちゃんなんて初めて見た。
父親である勝田さんにすら、こんな顔をしているところは見たことがない。
「う、うるさい…?舞、葉菜子が俺に向かってうるさいって言った…」
「うん、言ったね」
あからさまに落ち込んでしまった豪ちゃんに対して舞は意外と素っ気ない。
見かねたキングが何故か慰めている。
「ね?男の子の気配を察知するとあの調子なんだよ。お父さんより干渉してくるの。だからユキくんと付き合ってることも黙ってようと思ってたのに。ユキくんの方から "彼氏です" なんて言っちゃうんだもん」
「いや。俺は舞に手を出すなよ、って意味でご挨拶しただけだし…」
豪ちゃんの存在に疑心暗鬼になっていた。
しかし蓋を開けてみれば、「愛情が過剰でモンペみたい」とボヤいていた舞や、「本当の妹みたいに可愛がっている」と言っていた勝田さんの言葉どおりだったというわけだ。
シスコンを拗らせた兄貴の成れの果て…みたいなものか?
とにかく、恋敵ではなかった。
予選会目前、悩みの種がひとつ消えて、ホッと胸を撫で下ろす。
「じゃあ舞、俺帰るわ」
「うん。気をつけてね」
気を取り直した豪ちゃんは車に乗り込み、そばに歩み寄った舞と何やら言葉を交わしている。
まあ、そこに割って入るほど大人気ないことはしない。
先に宴会の準備をしようかと踵を返し、家に上がる。
その時。
「ユキ!」
開け放したままの扉の向こうから届いた声に、振り返る。
俺の名を呼んだ主は、初めて会った時と同じようにやたらデカイ声で続ける。
「悪かった!ちゃんと走れよ!テレビ、見てるから!」
「……」
クソ…
認めたくねぇけど、今、すげぇ嬉しい。
「でっけー声!応援団でもやってた?」
「は?何で知ってるんだよ!舞から聞いたのか?」
……マジか。
いや、でも本当に応援団員が一人増えたことには変わりない。
ますますダセェ走りなんて見せられないな。
ちゃんと走る。当たり前だ。
見てろよ?
勝負は二日後。
いよいよ俺たちは、運命の場所へ―――。