第11章 プレッシャー
「がんばれーっ!!みんなぁーっ!!」
連日の猛暑は相変わらず。
その中で行われる記録会は、選手たちの体力を更に消耗させている。
今日は寛政大学長距離陸上部10人全員での出場。
夏の合宿の成果が試される、重要な大会だ。
私と葉菜子が声援を送る中最初にゴールに辿り着いたのは、トラックを独走状態で走り抜いたカケルくん。
すぐ後方からそれに追いついたハイジくん。
そしてムサくん、城兄弟、ユキくんに神童くん。
ここまでの7人は既に公認記録を出しているメンバーで、今日のタイムも上々。
「せんぱーいっ!!」
「キングーっ!王子ーっ!!」
「行け行けぇーっ!!」
ゴールで待ち構えるみんなが応援の音量を上げた。
先輩もキングくんも、合宿前に比べて格段にタイムを縮めている。
もちろん、王子くんも。
以前は集団の最後尾から更に遅れをとり、一人引き離された状態で走っていたけれど、今日は違う。
一人じゃない。ちゃんと集団に付いて走っている。
ハイジくんの練習メニューの厳しさから、「地獄の白樺湖」とまで名付けられた夏合宿。
そのトレーニングの甲斐あって、公認記録である16分30秒目前でゴールしたのは…
「きゃーっ!お姉ちゃん!!」
「やったぁ!せんぱーいっ!キングくーんっ!!」
私と葉菜子はその瞬間、抱き合って喜びを分かち合う。
先輩とキングくんが遂に公認記録を達成したのだ。
アオタケチームが二人に駆け寄り、歓喜に湧く。
ひとしきり激励の言葉が飛び交ったあとは、最後の一人に向かって声を上げる。
「王子ーっ!!頑張れーっ!!」
「行っけ〜っ!!」
既に公認記録のタイムは過ぎてしまっているものの、この調子で走れば間違いなく王子くんの自己記録は更新できそうだ。
「王子くん!!あと少し!!ファイットー!!」
最後の力を振り絞ってゴールした王子くん。
タイムは自己ベストを叩き出した。
ハイジくんに賞賛の言葉でも掛けられているのか、小さく頷く姿が見える。
しかしその表情は、疲労とは別の険しさも含んでいるように感じられた。
箱根駅伝の予選会は、10人全員が公認記録を持っていなければ出場することができない。
つまり、厳しい言い方をしてしまうと…
王子くんが公認記録を出せなければ、その時点で寛政大学の箱根への道は閉ざされる。