第10章 ただ、好きなだけ ※
幼い頃にお父さんを亡くし、お母さんと二人で歩んできたユキくん。
男の自分がしっかりしなければと、糸を張り詰めたみたいに生きてきたのかもしれない。
ユキくんのことだから、お母さんに甘えたりもきっとしなかっただろう。
合宿の夜、自分のことを「寂しがり屋」だなんて冗談めいて言っていたけれど。
あれは案外事実なのかも。
胸の印がなくても、決してこの夜を忘れることはないよ。
今、こんなにも幸せでいっぱいなんだから。
私が心をほどける存在でいられたらいいのに。
この胸の中が、ユキくんが寄りかかって、甘えられる場所であれたら…。
「ユキくん。ずっとそばにいさせてね。この先も、何度でも抱いて…」
ユキくんに何もかも奪われたい。
ユキくんを私でいっぱいにしたい。
「舞…っ」
私の言葉を聞くなりもっと深く、激しく腰を沈めたユキくん。
すぐそこに差し迫っていた絶頂を二人一緒に手繰り寄せ…
私たちは、お互いの体に寄り添った。
「散々、勉強してきたのにさ…」
ユキくんが乱れた呼吸を整えつつ、呟く。
「うん…?」
「 "好き" しか出てこねぇの、何でだろうな。もっと今の気持ち、ちゃんと言葉にして舞に伝えたいのに…。 "好き" 以外、見つからない」
汗ばんだ私の体をためらうことなく抱き締めてくれたユキくんは、困ったように笑った。
鼻の奥がツンと痛い。
じわりと視界が揺れる。
私ってバカだ。
ユキくんの周りに魅力的な女の子がいるからって、卑屈になって…。
こんなにも私のことを真っ直ぐに思ってくれている。
それなのに、こんなにも幸せな気持ちをくれる人のこと、困らせて。
他の女の子と比べる必要なんてないじゃない。
「十分だよ、ユキくん。十分、伝わってる…」
「ど…した…?」
「ううん…。ユキくんのこと想ってたら、泣けてきたの。好きがいっぱいになると泣けてくるなんて、知らなかった…」
優しい笑顔で。
柔らかな声で。
「好きだよ、舞」
そう言ってくれるだけで十分。
今までで一番、幸せな夜。
指先でそっと涙を拭ってくれる、愛しいあなたへ。
私もこの言葉しか見つからない。
「ユキくん、大好き」