第9章 夏の星座 ―ユキside―
いよいよ日付が変わる。
時計の針は刻々と進んでいく。
まるで年明けの時のような、心躍るカウントダウン。
「5、4、3、2、1…」
文字盤の "12" の上に一直線。
黒い針が揃った。
「誕生日おめでとーう!カンパーイ!」
「ありがとう!」
お互いにスタンバイしていたピーチフィズの酎ハイをコツンと鳴らす。
最近舞がハマっているらしいそれを数口喉の奥へ流し入れた途端、口内に桃の甘みが広がった。
「じゃあ、22歳の抱負でも聞いときますか」
「うーん。今までどおり、みんなのサポート頑張る!」
「おお。頼もしい!」
「それから、ユキくんとの時間を大切にしたい」
「そうだな。こんな風に一緒に居られるの、卒業までだもんな」
大学卒業と同時に、俺はアオタケを出ていく。
舞が住むあの街ともお別れだ。
今の舞との距離があまりにも近すぎて、正直、離れ離れになる俺たちを想像できない。
「その時が来ること考えると、寂しくなっちゃうな…」
ポツリと漏らした舞の声は明らかにしょんぼりしていて…。
アホか、俺は。
よりによって、このタイミングでこんなことを口にする必要はなかった。
「コラコラ、何しんみりしてんだ!折角の誕生日だっつーのに!」
「うん…」
「春まではまだまだ時間あるし、卒業したって俺たちの関係が変わるわけじゃない。住む場所がほんの少し離れるだけだろ?」
「うん…」
「舞。こっち向いて?」
うつむく舞の頬を両手で包み、視線を合わせる。
「俺は変わらない。ずっと好きだ。舞は?近くにいなくちゃ、好きじゃなくなんの?」
「そんなわけない!」
「なら、問題ねーじゃん?」
寂しいのは俺だって同じ。
不安がゼロなわけでもない。
恋愛に限らず、物事において絶対的なものなんてない。
いくら "好きだ" 、"愛してる" と囁いても、別れてしまう男女なんてごまんといる。
子どもじゃない。それくらい分かってる。
だからって二人して暗い顔していても仕方がない。
今、舞を想う気持ちに揺らぎなんて一切ない。
好きだ。
ただ、それだけ。
俺がしっかりしねぇと。
舞の不安が、少しでも和らぐように。
舞が、沢山笑えるように。