第8章 Cold Rain
それは気配を感じとったというよりも勘に近かった。
ただなんとなく、彼が傍にいる、そんな気がして。
そして遠くへ離れていってしまうような、そんな気がして。
恐る恐るその名を口にした。
「ウルキオラ…………?」
先ほどまでと同じ。返答はない。
だけど確かに――
「……ウルキオラ!」
もう一度、今度は辺り構わず声をあげる。
自分が捨てられた子犬のような声を出していることさえ気づかず、沙羅はおぼつかない足取りで公園を彷徨った。
「ウル……っ」
「……ここにいる」
嗚咽混じりの声を遮って響いた声音に勢いよく振り返る。
破面の象徴たる白装束に仮面。深く澄んだ翡翠の瞳。
そこには間違いなく彼がいた。
この二週間、ずっと胸に想い描いてやまなかった人が。
「あ…………久し、ぶり……」
「……ああ」
あんなに逢いたかったはずなのに、いざ目の前にすると何から話せばいいのか。気持ちばかりがあふれてしまって言葉にならない。
どうしよう、とその表情を窺ったところで沙羅は気づいた。ウルキオラがひどく辛そうに顔を歪めていることに。
そこで初めて自分が今どんな顔をしているのかを思いだした。
涙の跡を拭って、笑う。
「もう、水くさいな。そんなところに隠れてないで早く出てきてくれればよかったのに。……格好悪いとこ見せちゃったじゃない」
ウルキオラがいつからこの場にいたのかはわからないけれど、身を潜めていたのはきっと気を遣ってのことだろうと沙羅は思った。
桜の下、悲鳴にも似た泣き声をあげていた自分に。