第7章 You Can Cry
迫りくるのは漆黒の闇。
何度も夢に見た虚無の世界。
絶望にも似たあの闇の中で、ウルキオラは必死に彼女の名を呼び、その姿を捜し求めていた。
それこそが、虚に堕ちた彼が理性を保つ唯一の手段だったから。
そして彼はついに見つけた。闇の中で光輝く一輪の花を。
嬉しくて嬉しくて、駆けよって、手を伸ばして、そして躊躇った。
たおやかな光を放つその花は、美しくあると同時にひどく儚げで
穢れたこの手で摘みとってしまったら、たちまちその輝きを失ってしまうのではないだろうかと。
この腕に抱いた途端、彼女まで闇に引きずりこむことになってしまうのではないだろうか、と……。
悩んで、迷って、そしてとうとう彼は決意した。
花に向けて伸ばしかけた手を下ろして、何事もなかったように身を翻して。
求めるものすらなくなった闇の世界へ向けて再び踏みだす。背後からはいまだまばゆい光があふれているというのに。
これでいい。
本当に彼女のためを思うならこうするほかない。
そのほうがきっと幸せになれる。
俺の傍にいるよりも、ずっと――
そう言い聞かせて背中越しに別れを告げた。
愛してやまないその人へ。
さようなら
沙羅……
そのとき
弱々しい声が耳に響いた。
「ウルキオラ…………?」
***
《You Can Cry…どうか涙を》
涙をこらえる姿を見るのは、余計につらいから。