第3章 A Strange Death
嬉々とする沙羅とは対照的にウルキオラは戸惑いを隠せなかった。
お礼と称して渡された、甘い香りを放つこの包み。これを一体どうしろと言うのか。
「どうしろって、食べるのよ」
さも当然のように沙羅は言う。
いや、確かにそう、その通りなのだが――
もはや己の理解の範疇を超えた状況に、ウルキオラは諦めたように息をついた。
「……本当に変わった奴だな、おまえは」
「沙羅」
「……?」
「おまえじゃなくて、沙羅」
彼女の言わんとすることを察して冷めた表情で見下ろす。
「くだらんな」
「くだらなくない。名前っていうのはすごく大切なものなんだから」
「俺たちにとっては名前などただの識別番号と同じだ」
ウルキオラが淡々とした口調で吐き捨てると、沙羅は少し考えてから口を開いた。
「――ウルキオラ」
「なんだ」
「ウルキオラ」
「……」
怪訝そうに眉を潜めるウルキオラに、ふっと口元を緩めて。
「呼ぶ人が気持ちをこめて呼べば、その名前も意味のあるものになるんじゃないかな」
そう笑いかけた。
意味? 意味などない。
俺たち破面にとって、名前などあってないようなもの。個々の個体の区別がつけば十分に事足りる。
そこにどんな意味があるものか。
「意味は――最初からあるものじゃない。それを見いだしてくれる人と出逢うことで初めて生まれるのよ、きっと」
「理解できん」
「ウルキオラの周りにもきっといるはずだよ。意味をこめて呼んでくれる人が」
謎かけのように彼女は言った。
「……さあな。おまえなんぞの戯言に付き合っている暇はない。もう行く」
「ここで休む暇はあるのに?」
茶化すような口調で見上げてくる沙羅に、ウルキオラは分かりやすくため息をこぼして腰をあげた。……右手の包みはしっかりと抱えたままで。
「――ウルキオラ!」
その声に顔の半分だけ振り返ると、彼女は笑った。
「またね」