第11章 A Gray Cat
「――うちの隊じゃなかったのねぇ。残念だわ」
隊舎の扉に寄りかかりながら腕組みをしてぼやいた金髪の女性に、沙羅はくすっと笑顔を向ける。
「そうですか? 私は乱菊さんにこき使われずに済んでほっとしてますけど」
「おいっ新人! 松本四席に向かってなんて口の利き方だ!」
その軽口を耳に留めた十番隊の隊士が語気を強めて沙羅に掴みかかろうとするのを、彼女の腕がひらひらととめた。
「ああ、いーのいーの。どうせこの子、すぐにあたしと同じぐらいまでくるから」
「は……? しかし――」
「あんたこそ口の利き方には気をつけたほうがいいかもしれないわよ。近い将来上官になってるかもしれないしね~」
いまいち納得のいかない様子の隊士を無理矢理追い払って、乱菊は「そうそう」と振り返った。
「沙羅、ひとつ言い忘れてたけど」
「はい?」
「本気であたしと肩を並べるつもりなら、敬語で喋る必要ないわよ。ま、追いつく自信があればの話だけどね」
挑発的な物言いでそう告げたその勝気な笑顔は、四年前のそれと比べてもなんの遜色もなく、むしろ一段と美しさを増したようにすら思えた。
そして沙羅はそれに負けないぐらいの鮮やかな笑顔を返して、頷く。
「わかった。すぐに追いついてみせるから」
その日から同じ護廷隊士として職務に就く彼女たちが、親友と呼ばれる間柄になるのに時間は要さなかった。
「沙羅~! 見て見て、さっき京楽隊長から甘味処のタダ券もらっちゃった! 休憩時間に行こ! ね? ね?」
「乱菊……昨日ダイエットするって言ったばかりじゃなかった?」
「だぁって! せっかくくれたのに使わなかったらもったいないじゃない!」
「だったら貰わなければよかったのに」
「やーよ。ここのあんみつおいしいって評判なんだから」
「結局食べたいんでしょ!」
そして今日も瀞霊廷の片隅に、ふたりの明るい声が木霊する。
***
《A Gray Cat…灰猫》
こうして乱菊との信頼が築かれました。沙羅の斬魄刀も初登場。能力はいずれ本編にて明かされます。