第14章 おかえり
ゆっくりと近づいてくる一頭の馬
その背には謙信が黒髪の美しい姫を大事そうに抱き込んでいる
「佐助、貴様何をしている」
「初めて会うので自己紹介を」
佐助に馬の手綱を預け葉月を横抱きにしたまま地面に降り立った
葉月の瞳は閉じられ頬が朱く染まっている
「軍神お市を還してもらおう」
「信長、貴様とは縁を切ったと言っていたが」
「ふっいつの話をしておる
貴様など遠く及ばぬ程
お市は兄である俺を好いている」
「文の一つも寄越さぬ薄情な兄だと聞いたぞ」
「俺は貴様の話など一度たりともお市の口から聞いたこともない」
「「「「・・・・・・・・・・」」」」
どうでも良いような事を
信長と謙信は言い合いを続けている
「謙信様が可笑しな事になってるぞ佐助」
「愛に溺れると人間は可笑しくなるんだよ幸村」
佐助は幸村に向かってグッと親指を立てた
「・・・・・・葉月」
葉月の瞼が家康の声に反応してゆっくりと開いた
『いえ・・・やす・・?』
「うん。迎えに来たよ」
おいでと手を差し出すと謙信の腕から抜け出し
フラフラと家康のもとへと歩いて行きキュッと抱きついた
「おかえり葉月」
『家康・・・あいたかった』
「遅くなってごめん」
チュッと額に口付けを落とし葉月を抱き上げ信長と謙信の二人を見た
「・・・・・俺と二人の時の葉月は敬称も敬語も無いです
普段も甘えてきて可愛いですけど湯殿上がりが一番です
他の男には見せませんけど。では俺達は帰ります」
くるりと向きを変えスタスタと歩き出した
後ろから政宗の笑い声が聞こえてきた